次々と復刻していくライカの未来
ライカはSummilux 35mm f1.4 1st (第1世代)、そしてフィルムのライカM6と、次々と過去の名作を復刻していますね。「クラシックライン」と称して過去のレンズを復刻する流れにも拍車がかかっています。
この流れはどういう意味を持つのでしょう。なぜ次々とライカは復刻をするのか。そしてライカはどのような未来へ進んでいるのか。現状を踏まえてライカ、そしてカメラの未来を予測してみようと思います。
なお、Summilux 35mm f1.4 1st (第1世代)に関しては以前の記事で予想した通りに復刻されました。
やはりかなり需要があったのですね。
CONTENTS
ライカによって復刻される条件
まず初めにライカが復刻を考慮する条件やポイントを整理して、復刻という概念について考えてみます。
需要がある
そもそも現在そのレンズやカメラが需要があることが第一条件です。なぜなら市場調査の結果ニーズのあるものを提供するのが企業として求められていることだからです。求められているものを提供する→顧客が満足する→企業は潤い新たに開発&製造を進めることができる→顧客はより拡大したサービスを受けることができる。企業のサイクルは基本的にこのような繰り返しになります。
供給が少ない
需要があっても十分に供給が行き渡っているときは製造する必要がありません。過剰に供給すると値崩れを起こしたり売れません。今回のズミルックス35mm第1世代、通称スチールリムは中古で過剰に高騰していました。以前復刻されたノクティルックスF1.2、ズマロンのフードつきに関しても同様です。需要に対して供給が過度に少ない状態です。
しかしこの状態というのはライカにとっては何の得にもならないんですよね。いかにレンズが高騰しようとライカには1円も入りません。だから最新のレンズよりも過去のものをみんなが求めるならそもそも私達が供給するよ、となるのは当然ですね。
現在の基準を満たさない(アップグレードする余地がある)
ライカは時代ごとに最善の方法で、常に最高のレンズを作ることにこだわっています。ただ何十年も前のレンズを現代の基準で照らし合わせると褒められたものではない部分も多くあると思います。
ズミルックス35mmに関してはもう60年ほど前のレンズです。ボケのにじみも意図したものではないはず。ライカとしてはあんまり昔のレンズばかり取り上げないでくれよ、って感じだと思います笑。しかし面白いもので、人間は往々にして不完全なものを求めたりするんですよね。ではその不完全な性質は残しつつ現代の技術で完璧に作ったらどうなる?というのがクラシックラインなのでしょう。ものを作る発想としてはとても面白いです。
上記をそれぞれ満たしたとき、復刻されるのは必然だと思います。それでもすでに製品として出したものを再度作るのはなんだか受け付けないという人もいるかもしれません。しかしよく考えてみてください。以前からライカをずっと使ってきた人にとってはライカM6やズミルックス35mmは見慣れたものですが、20代前後でこれから写真を本格的に目指す人にとってはすべてが目新しく見えるはず。そしてもし今ズミルックス35mmを手にしようとしても非常に難しいわけです。それならば等しく選択肢が得られるようにメーカーが用意するのは悪いことではないと思います。
復刻によってコレクターズアイテムと化していたレンズは写真家によってきちんと使われるレンズになるでしょうし、ますますそのレンズで新しい写真が生まれるのだと思うとわくわくしますね。
なお、オリジナルのレンズはより高くなってよりレアになっていく可能性が高いので手に入れるのであれば今のうちです。
Hektor 7.3cm f1.9
復刻を続ける危険性
上記のように復刻はニーズがあるから行われるわけですが、大きな創造的生産性があるかというと微妙です。一種の懐古主義ともとれますし、根本的なニーズを満たせるわけではなく刹那的でもあります。
ライカフリークは喜びますが、一般のユーザーからすると古いレンズを作り直すより新しいビジョンを見せてくれよ、ともなります。しかしそう簡単に革命的な技術が生まれるわけではありません。現状メーカーとしてでできることをある程度やり尽くしてしまうと、どうしても他のニーズを穴埋めするような行動になります。
もちろんこれは批判的な意味で言っているわけではなく、そうあるべきだとも思うのですが、、、ここで頭をよぎるのがゲーム業界でよくあるリメイク合戦。新規のIPを育てるのは大変だしコストもかかるので、過去のIPに頼って派生物を作りまくった結果カオスになり、企業価値をどんどん下げていくといった流れです。
これは現代の消費のスピードが速まり、製造のスピードが追いつかなくなった結果が生み出したものだと思いますが、、、ライカはこうならないことを祈りたくなりますね。
しかし考え方によっては過去の財産をラインナップとして用意するというのは、ライカが作り上げた世界から自由に選択できるようにする、それがまた新しい表現を生み出していく、ということです。歴史は繰り返すというように、オールドレンズの波は来ては去りを繰り返すかもしれません。そういう意味で製造から極端に時間が経ったものは定期的に再現しておくのは意味がありそうです。
そして、そもそもライカは懐古主義というより、昔から大きな変化を必要としない構造を持った稀有な存在でもあります。積み上げた伝統の上に成り立つカメラ界の王者のようでもあり、どっしりと構えて最高のものづくりをしていれば評価はついてくる、そういうもののようにも見えます。
M型は完成したモデルだから常に存在しているだけで意味があるのだ、と言うライカユーザーもいそうですが、、、しかしそうではない現状が今ここにあります。
ライカの趣味性
Leica M10-D + Summaron 28mm f5.6
言うまでもなくスマホカメラの性能向上は目覚ましいものがあります。誰もが簡単に写真を撮れることによって、目新しいものをカメラで写真に写すことの特権性はすでに失われました。つまり写真を撮る、ことだけに関してはライカでもスマホでも同義であり、特に価値のある行動ではないです。そしてそれが何によって撮られたか、はまったく重要ではありません。
ますますこの流れは加速して、「ライカで写真を撮ること」の趣味性は強まります。しかし現在もライカの人気は増し続けており、スマホ世代にも受け入れられているように見えます。
これはどういうことでしょう。
実はここに「撮ること」のからくりがあります。
つまり何を撮るか、ではなくどう撮るか、がアマチュアカメラマンにとっては重要なのです。カメラを選びレンズを選び、こういう写真が撮りたい、と思ってそれを狙って撮る。そしてそれを誰かに共有する。それら一連の体験が「撮ること」において最も重要だということに、みなが気づいてきているのだと思います。もっぱら水面下ではそれがすべてと言っても過言ではないでしょう。
そしてすべてのスマホユーザーが広義での写真家になったのかといえばノーです。いつでも撮れることと、写真として撮って追求すること、はまったく別なのです。
人が写真という行為に何を見出すのか、ここにライカの意義が隠れていそうですね。
ライカのカメラの行方
最近のライカは最低限の機能性を新たに確保することで進化をアピールしているようにも感じます。Summilux 35mm f1.4 ASPH.がマイナーチェンジされ最短撮影距離が更新されましたが、他社のカメラを使ってる人からすると「えっ、それだけ?」とも言われかねない状況。おそらく技術的には難しいことだし、それを妥協なくできたからこそ世に出すライカだから受け入れられている、というのもありそうです。
しかし欲を言うと、もっと大きな変化が欲しいなぁというのが正直なところ。ボディに関してもFUJIFILMが出したハイブリッドファインダー(光学ファインダーが電子ファインダーも兼ねている)なんかはライカでも広角や望遠の確認にマストな印象を受けるのですが。
Mマウント自体も古い設計ですし、いつかはM型ライカの大きなシフトチェンジが起こりそうですね。レンズを完全にシミュレートできる技術が生まれればレンズそのものは置物になるでしょうし、ライカはウェアラブルデバイスとしてより軽量になる可能性もあります。(いつしかライカグラスなるものができるかもしれません。)
ライカが世界をどう認識させようとするのか、世界の見方をどうリードするのか、未来のことはわかりませんが、「効率的であること」から距離を置いているライカには、人の一見無駄だと思える行為の中にこそ豊かさを見つけて新たな提案をして欲しいと思います。
エモーショナルであること
これらにおいて重要なポイントは個人的に「エモーショナルであること」かなぁと思っています。人が機械やAIと大きく異なるのは感情ドリブンだということです。人は一度、人の物語を知ってしまうと共感せざるを得ない構造を持っていて、これこそが価値や意味に繋がります。
ライカを買うところから始まり、初めてレンズを選ぶということ。そしてそのレンズが作られた時代の目で世界を見わたすこと。自分が感じたことを大切にして紡いでいくことは、何より人生において重要なことです。
ちょっと主語が大きくなりましたが、写真の未来やそもそも写真を撮る意味なんてものは誰にも確かなことは言えません。それならば楽しんでしまおうというのが、ただ今言えるひとつの正解なのかなと思っています。
X(@soyumn)やってます。
ライカで撮った写真やライカ関連ツイートを日々更新中。
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