写真はフィルムかデジタルか。未来の「写真」に向けて
PHOTO BY Andreas Schalk
写真はフィルムかデジタルか。これまで幾度も議論されたテーマだと思う。しかし今になっても「写真」というメディアにおいてこのテーマは生き続けている。そしてこのテーマに対して、おそらく現在ではまだ一般的ではない回答を私なりに持っているので、メモ代わりにここにまとめておこうと思う。
まず先に結論から。フィルムかデジタルか?それは「大きな選択」の中の小さな差異でしかない。好きな方を選べば良い。
この「大きな選択」というのが何を示すのか、そしてここに至った経緯をまとめてみる。
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ライカ通信 No.7
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オールドレンズで撮る ポートレート写真の本 Cameraholics extra issue
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Cameraholics vol.4 写真家の勝負レンズ。
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LEICA M デジタルM型ライカブック
CONTENTS
フィルムとデジタルのメリット・デメリット
まずはフィルムとデジタルのメリット・デメリットを整理してみよう。
フィルムのメリット
- 化学的現象である
- フィルム固有の質感描写が味わえる
- 現像過程で物質としての偶然性が含まれる
- カメラの物理的修復が容易
フィルムのデメリット
- 物質の消費を伴い制限がある
- ランニングコストが高い
- 厳密な制御がしにくい
- 縮小していく業界である
デジタルのメリット
- 撮影画像を撮影前に閲覧&選択できる
- 撮影枚数に制限がない
- 現像の拡張性が高い
- レンズ毎の補正が受けられる
- デジタルにしかない表現がある
- ランニングコストが低い
デジタルのデメリット
- ライカのサポートが終わるとカメラがゴミになる
- 良くも悪くもデジタルデータでしかない
ざっと上げてみたがきっと他にもまだまだある。異論もあるだろう。そして精神的な部分を入れると人それぞれたくさん出てくると思う。一見それぞれにメリット・デメリットがあるように見えるが、フィルムのメリットは今現在ほぼデジタルでも補完できるようになってきている。
結局デジタルにデメリットが少なくメリットが多いよね、というのは言うまでもない結論になる。
ではフィルムの優位性や物質として、また光画としてのフィルム写真について考えてみよう。
フィルムの描写の真実と選択の価値
PHOTO BY Michael Fraley
フィルムを優位だと考える場合に多いのがフィルムの化学的変化、つまり物質性による描写の違いだと思う。しかし、これは本当にそうなのだろうか。「何を撮るか」について無限に可能性がある中で、「どう見せるか」のごく一部である「物質性としての描写」はそんなに大きいのだろうか。
ちなみに私自身はデジタル写真が主流になってきたとき、デジタルの写真は「写真」から名前を変えるべきだと思っていた。なぜならフィルムとデジタルは性質がまったく違うので、別々に分けるべきだと思ったから。しかし今はちょっと意見が違ってきた。フィルムかデジタルか、という差異は今後の写真という枠組みからすると本当に小さな違いでしかないと考えている。
話を戻すと、「フィルムだと良い絵になる」というのはバイアスであると思う。つまりフィルムという制限や偶然性に身を任せることで、まず撮影者には儀式行為による主観が写真に投影される。そして写真そのものには有機的なノイズが含まれ、それが写真の味として認識される。この味は表面的には再現が可能だからバイアスは撮影者側の意識が主に作用していることになる。
そしてそれが二次的に作用する場合もある。とあるフィルムのイメージが強い写真家はデジタルで作品を見せても「やっぱりこのフィルムの質感良いですね」と閲覧者に勘違いされることが多いという。フィルム愛好者の主観によって写真そのものにバイアスがかかった結果だ。
フィルムが呼ぶ精神性と行動
PHOTO BY MaxDeVa
フィルム撮影はその機構上、精神的な統一や集中を必要とし、撮影者が能動的に動かねばならないという点がある。能動的に物事を動かすことは「思い込み」を誘発し、「思い込み」は人を強くするというのは脳科学で証明されている。例えば自分の理想像としてのアバターを着た状態では、人は自分の理想的な言動をより強く振る舞えるという。
また人間は自由になる(自由な表現をする)ためには制限が必要で、完全に自由であると何をして良いかエネルギーを持て余す動物だということも関係しているだろう。制限を設けることでその中での自由さが明確になり、目指すべき目標もあらわれてくる。直接的には関係がないかもしれないが、暴走族は交通ルールを無視するにも関わらず、族の中では厳しい上下関係が存在する。
つまり結局のところフィルムを選ぶことで能動的に行動する必要が出てきて、それによって自身を強く表現でき、またフィルムという制限が多くあることで人は豊かな表現をたくさん生み出してきた。
それならばフィルムという機械によって精神を鼓舞させたいのであればフィルムを使えば良いし、逆にデジタルの場合は自分自身でデジタルの機能をより能動的に選び、意識的にシャッターを切る必要があるとも言える。
なお自分自身の体験として、何となく今日は良い写真を撮りたいと思って望んだときは良い結果が得られない。今日はこういう画が撮りたいからこの画角。そしてこういったシーンを撮りたい。そのためにあそこに向かい、この時間でこういう風にシャッターを切ってみよう、と一枚の写真を撮る行為を限りなく分解してみる。すると思った通りの写真が撮れることが多い。
フィルムの場合はこれらをせずにはおれない。なぜなら撮るにも現像するにも展示にも、代償が必要だからだ。
デジタルのフィルム的質感再現から考える
デジタルで撮りデジタル現像した写真
デジタルのフィルム的質感再現についても考えたい。デジタル写真なのにフィルム調のエフェクトを施す。これには批判的な意見をよく見る。デジタルで質感を再現するなんてバカらしい、意味がない、と。
しかしよく考えて欲しい。写真の定義は何だろう。
現実をそっくりそのまま写すこと?それとも人間の意図を機械で反映すること?
どちらにしても人が関わっていて、その結果出力されるものだ。合成してあっても、CGであっても、大きな意味で写真的に出力された結果であれば、それは現代において写真とみなされる。
写真における「大きな選択」とは
これもフィルムのようでデジタルで撮った写真
もしフィルム調にするのがNGなのであればレンズを通した像がjpgに変換される過程もNGになる。なぜならそこには人の固有意思による変換作業があるからだ。同じ理由で印刷する過程でプリンターを通すのもNG。現像ソフト特有の変換を通すことさえもNGになってしまう。
逆にいうと、何かしらの機械的変換を伴うのであれば、それはカメラでなくても良いかもしれないし、シャッターを切る必要もないかもしれない。
そういった曖昧な「写真らしきもの」は山程すでに存在し、すでに写真と認められている。現代写真と名のつくものはそうだろう。それらは「自分で撮っていないかもしれない」、「カメラやレンズでそもそも撮っていないかもしれない」という可能性を常に持っている。
そしてフィルムを限りなく再現したものも、再現という過程に人の意図があり撮影者の変換量や偶然性を含んでおり、フィルム制作者及び現像時の意図、偶然性と構造的には大きく変わらない。人が機械を通して何らかの過程で生み出した像は基本すべて写真なのだ。
つまりフィルムこそが写真だと宣言することは、写実的に描く絵こそが絵画だ、ピカソやブラック、またはモンドリアンのように抽象化していく行為は絵画ではない!といっているようなことになる。大きな「絵画」というジャンルにおいて、写実的な古典絵画や抽象絵画がひとつの選択肢であるように、フィルムorデジタルもひとつの選択肢でしかない。むしろ今後写真という概念が拡張していくにつれて選択肢は膨大に増えていき、フィルムorデジタルはより小さな差異でしかなくなっていく。
これはフィルム or デジタル?
だから、フィルムかデジタルか?それは「大きな選択」の中の小さな差異でしかない。好きな方を選べば良い。もうどちらかを持ち上げたり蔑んだりする必要はなく、どっちでも大して変わらないというスタンスを私は持っている。
人は過去の遺産をなかなか手放しにくい生き物だ。なぜなら単純に利便性や効率だけで取捨選択すると、そこにある文化が失われてしまうから。だからこそ知恵を使ってその文化を継承していくことも必要になる。
写真に関してはフィルムで感じた良さをデジタルに活かしていけば良いと思う。ただし、写真という表現において本質はそこではないことを忘れてはならない。
X(@soyumn)やってます。
ライカで撮った写真やライカ関連ツイートを日々更新中。
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