Summilux 35mm f1.4 第2世代を使い続ける理由と、ものを見る目

Summilux 35mm f1.4 第2世代を使い続ける理由と、ものを見る目

初代Summilux 35mm f1.4といえばライカのレンズの中でも代表的なレンズのひとつだ。後の非球面と比べ球面ズミルックスと呼ばれる。開放付近の滲み描写が美しいと言われ、2022年に復刻もされたこのレンズ。このレンズは私にとってとても思い出深い。

Summilux 35mm f1.4の特殊性についてはすでに散々語り尽くされているし、あえてここで深く取り上げてこなかったのだが、今あらためてモノローグ風に振り返ってみようと思う。

Summilux 35mm f1.4 2nd (第2世代)
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Summilux 35mm f1.4 第2世代との出会い

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そもそもこのレンズは私が初めて買ったライカ単焦点レンズだった。レンズ交換式のライカに手を出すにあたって、当初レンズ選びは困難を極めた。なぜなら親しい人に現役のライカ使いがおらず、多くがキャノン、そしてハッセルやニコン、リコーが少数で、情報源は基本的にショップかライカ本だった。本屋でライカ本を手にするも情報量の多さに辟易し、ネットで数少ない情報を追うがどうもよくわからない。作例を見ても当時の自分にはどれも似たようなものに思えた。

自分の標準画角になるよう35mmを探すと、ズミルックス、ズミクロン、ズマロン、ふむふむ。。あとエルマーもあるのか。何度もムックや雑誌、ネットを調べているとよく取り上げられるレンズというのはある程度決まってくる。ズミクロンは35mmより50mmのほうが評価が高そうだな、、でも8枚玉は人気なのか、、ズマロンは通っぽくて良いけどf値がなぁ、、とか。そんなこんなで半年ほど悩んだのだろうか。あれでもないこれでもない、と自分の中で揺れ動き、作例とにらめっこする日が続く。夢の中でも悩んでいた自分に遭遇したくらいだ。

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最新のレンズの描写に憧れては、古いレンズの個性の魅力にも揺れ動いた。アスフェリカルという言葉を見る度に何か特別なものを感じた。多くの選択肢の中でSummicron 35mm f2 ASPH.が有力候補だったと思う。ライカの角型フードにも憧れがあったし、出てくる画も好みだった。しかし人は安直な考えをするもので、ズミクロンの上にズミルックスがあるとどうも気になってしょうがない。ズミクロン↓より、ズミルックス↑と語尾が上がる感じも凄みがある気がしていた(今思うとアホらしい…笑)

それにライカを始めるなら最高のレンズ、最もランクの高いものでやりたいという謎の意識もあった。なお今となってはズミルックスだから最高レベルというわけでないことはすでに承知している。

自分は本気なのだと言い聞かせて最新のズミルックスの価格を見るが、、手に出そうもない。そこで現実的な選択肢を絞り込んでいくと、Summilux 35mm f1.4の通称第2世代が何度も目に入ってくる。フードは角型ではない。丸型でクラシックな印象だ。どうやら開放では像が暴れるので人気は分かれる模様。これで撮られた写真はあまり好みではなかった。しかし一部熱狂的なファンもいるようで、使いこなすには苦労するとのこと。

Summilux 35mm f1.4 2nd (第2世代)

レンズ種類
単焦点レンズ
レンズ構成
5群7枚
マウント
ライカM
焦点距離
35mm
F値
1.4
画角
64°
絞り羽根数
10枚
重量
245g
最短撮影距離
1m
フィルター
ねじ切りなし。シリーズ7フィルターをフードにはめ込む。
フード
12504, 12526
製作年
1967-1995
カラー
ブラック / チタン(限定)
市場価格
約250,000-500,000円


ライカと写真、その動機

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そもそも昔から自分は生粋の天の邪鬼で、これがいいよと進められたら別のものを選ぶタイプだ。牛肉が美味しいというレストランでわざわざ鶏肉を食すような人間である。自分でもなぜだかよくわからないが、人と違うことに価値を見出していた若い時代があった。

ライカに目を向けたのも一風変わった興味からだった。自分は昔から写真を撮られるのが嫌いで、写真というメディアに一定の興味は示しつつも自分では撮るまいと決めていた。しかし認知学や視覚に対する造詣を深めていけばいくほど、「人がなぜ写真を撮るのか」ということに興味ががぜん湧いてきた。

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それならば「見ること」に最も近いレンジファインダーで自ら撮ってやろうと思い立ったのである。写真を撮りたいからライカを買うのではなく、なぜ人は写真を撮ってあらためて「見ようとする」のか、その謎を確かめるためにライカを買う。動機としてはいろいろおかしいのかもしれない。

しかしそんなねじれた自分にこのSummilux 35mm f1.4 第2世代は何だか似ている気がした。上手く撮るのは難しい、撮られることを拒否するようなじゃじゃ馬ぽさもある。しかしひと度使いこなすと、その写りの中に他にはない輝きを魅せるレンズ。これを使いこなせたらライカユーザーとしても一人前と認めてもらえるかもしれない(誰に?)。このレンズを通して見える景色はどんなものだろう。

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自分の予算と自分の性格、そして目的が合致した気がした。こうして最初のレンズが決まった。

Summilux 35mm f1.4 第2世代を使ってみる

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当時はまだ現在ほどの人気はなかったように思う。値段も半値以下だった。王道ではない選択肢だ。装着した姿は悪くない。二重像を合わせて撮ってみる。「あれ、こんなものか」というのが正直な感想だった。

もっとすごい画が出てくるのかと思ったが、ちょっと微妙なレベル。それもそうだ。ライカが何か特別なことをしてくれるわけではなかった。変に大きな期待と妄想を膨らませていたが、そこには古いレンズと実直なデジタルの出力機があるだけだった。むしろこれまで使ったコンデジのほうが華やかな画を出してくれていた気がする、、悩んだ結果がこれで大きな喪失感があった。ライカの感触は良かった。

いま思うと、この「何か違う」と感じた原因はいくつかあった。写真の露出が適切でなかったり、絞りも上手く使えてなかった。それに何にでもあの開放付近の滲みを使っていたし、とにかく派手な描写を求めて無茶苦茶なことをしていた。それに現像も下手で、CCDの色に振り回されていた。

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いろんな要素が絡み合って自分に降り掛かってくるのを精査しきれず、大混乱。そしてレンズ自体も強烈にあくが強い。デスクに置いたカメラを眺めてはため息をつくような日々が続いた。

しかし一度は使いこなすと心に決めて手にしたライカだ。簡単には諦めきれず、どこへ行くにもこのズミルックスをつけていった。

Summilux 35mm f1.4 第2世代との葛藤

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このSummilux 35mm f1.4 第2世代を売ってSummicron 35mm f2 ASPH.に変えようか何度も迷った。この頃は自分の撮りたいものにも迷いがあった。本来古めかしいものや味のある被写体が好きなのだが、当時は現代美術写真に傾倒していたのもあり、よりソリッドなテイストが身近に欲しかったのだと思う。しかし踏みとどまっては初めの思いを振り返り、とにかく続けることにした。

ズミルックスをつけて多くの旅をした。ときには大雨の中濡れないようかばいながらシャッターを切った。条件を変えて何度も同じ被写体を撮ったり、あえてブレさせたり、ノーファインダーで撮り続けたり、走りながら撮ったり、レンズをちょっとずらしたり、フィルターに息を吹きかけて曇らせたり、いろんなことを一通りやった。

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この試行錯誤が良かったのか(?)ライカの使い方は一通り体に染み込み、ズミルックスは手と目の延長のようになった。レンズも50mm、90mm、28mm、と次々と増えていった。いろいろ売り買いしたが、このSummilux 35mm f1.4 第2世代は残ったままだった。

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その間にライカはM9になり、ボディは都度変えていった。ライカX1、X2に浮気したことがあるが、やはりM型とこのズミルックスは自分の中心だった。

この頃になると開放ではほぼ撮らなくなっていたと思う。f2-2.8くらいがいわゆる「おいしい」値で、常用していた。エルマリート35mmと自分の中で呼んでいた時期もある。しかし段々と絞っていたときの描写も良いことに気がついた。明るいレンズなら開いてなんぼのイメージがあり、絞って使うとどれも一緒だとどこかで思っていた。

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それから自分の中でこのズミルックスはf2.8でおいしく、絞っても二度おいしいレンズになっていた。このレンズで何枚写真を撮ったのかわからないが、今でも新しい側面を見せてくれる不思議なレンズだと思う。

今、このレンズに思うこと

昔も人気だったのかもしれないが、今もしライカのレンズランキングがあったら必ず上位に来るだろうこのレンズ。様々な人がSummilux 35mm f1.4 第2世代で撮った写真をネットで眺められるようになった。

どうしてもあの開放付近の滲みが称賛されるが、一般的に見たら写真が滲んでいるのはおかしいことだし、非現実的だ。そして滲ませるべき被写体でないものを滲ませている写真がほとんどだろう。かつて自分もそれを量産したし、それが嫌で滲みを封印した期間もあった。

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今はというと、やはりこのレンズでないと写せないものがあるような気もする。その場所に染み付いた歴史、人間の揺れ動く感情、物への情景など写し取ろうと思うとき、このレンズの絞りを開くことで吸い込まれるように写真へ投影されるような気がしている。

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以前写真家の藤原新也さんが現役でこのレンズを使われているのを見た。誤解を恐れずにいうとこのレンズは死と惹かれ合うレンズではないかと感じた。ツァイスのレンズを使うと、ツァイスは生であり、光を呼び込み、明に写すなといつも思う。気持ちが晴れ晴れする。被写体がこんなに美しかったのかと思う。一方ライカは死であり、闇に引き込み、暗を写す。こんな側面があったのか、こんなものが隠れていたのか、と、どきどきし、それによって生き生きとしたものが浮かび上がる。

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考えすぎなのかもしれないが、自分にとってライカは、そしてこのズミルックスはこんなレンズだ。未だに良いレンズなのかよくわからない。だから一方的に称賛しているものを見るとちょっともやもやする。ねじれた自分はあまり進歩していないようだ。ねじれた自分がねじれたレンズを使うと、マイナス×マイナスでプラスになる。意外と相性は良いのかもしれない。

あと何枚これで撮れるのか分からないが、私の「見る目」はこのズミルックスを通した目であり、これを通してこれからも見つめていこうと思っている。

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