ライカでソール・ライターを意識して写真を撮ると危険な話

ライカでソール・ライターを意識して写真を撮ると危険な話。

ほぼ無名ながらその撮りためた写真によって死後に急激に知名度を上げた写真家ソール・ライター。ソール・ライターの写真には独創的な特徴がいくつもあり、一度は真似したくなる写真です。

「ソール・ライター風に撮る」というと、各方面から多くの批判の声が聞こえてきそうですが笑、たとえ形骸化されても撮影手法のユニークさが際立つというのがソール・ライターの凄いところでもあります。

もちろん、どんなに頑張ってもソール・ライターと同じようには撮るのは難しいのですが、ここでは彼のように撮ることで何が見えてくるのかを理解する、という趣旨でやってみようと思います。

そしてそのように撮るということは現在どういったことを意味するのかについても考察してみようと思います。

※記事中に掲載している写真はソール・ライターを意識してテストで撮ってみた写真です。

ソール・ライターの写真の特徴

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ソール・ライターの写真を特徴づけるものはいくつかあります。

  • 分割された構図
  • 鮮やかなレッド/イエローの被写体
  • 上手く利用された前ボケ
  • 物体の隙間から除くようなフレーミング
  • ガラス越しで抽象化された物体

などなど。かなり意識的に撮影手法を決めて、それらに則って被写体を選び構成していることが分かります。

これって言葉を変えるとデザイン的アプローチなのですよね。写真の画面内に存在するパーツを取捨選択し、リズミカルに構成する。色の配置さえも意識的に選び取ることで、ありそうでない現実の瞬間が演出されています。長年デザインに携わってきた自分からすると、画面が本当によくデザインされているなと感じます。

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ちなみにソール・ライター自身は絵画の道に進もうとしていたようで実際に絵画作品も残していたのですが、当時の抽象表現主義の影響が大きいです。画面の構成などどうみてもマーク・ロスコを彷彿させるものもあります。

ライカでソール・ライター的に撮るには

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ソール・ライターはライカを中心に使っていたようですが明確な機材は不明です。しかし作品を見ると75mm〜135mmくらいの中望遠で撮られたようなものが多い印象です。中望遠だと大口径でなくても近景はボケますし、そのアウトフォーカス部分を上手く使って平面上のメリハリを構成することができます。

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現在ライカで撮るならEVFやライブビューで撮るのが圧倒的におすすめです。レンジファインダーだと厳密にフレーミングができないですし、ボケ具合も調整ができません。これは実際に撮ってみると分かるのですがほんの少し自分が動くだけで構図や前ボケの位置などは簡単に大きく変わってしまうんですよね。この微妙な変化を精密に捉えるためには実際に撮れる画を確認しながらでないと厳しいです。

しかしソール・ライターは当時フィルムの関係等で明るいレンズを使うためにライカを使ったのでしょうが、そんな不確定な環境であの劇的なフレーミングをしていたというのだからいかに凄い技量を持った人だったのかが分かります。

なお、M10-RやM11だとトリミングの幅がかなりありますので、画面中央部で画ができていればシャッターを押して、あとでPC上で仕上げるやり方ができるメリットがあります。

あと撮影場所ですが、被写体と構造物の関係の妙を写すわけですのでなるべく物が多いごちゃっとした街だと選択肢が多くなります。もしくはターミナルのような人が行き交う立体構造の場所だと面白い写真が撮りやすくなります。そういう意味では大都市だとソール・ライター的写真は撮りやすいです。

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ライカレンズの選び方

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ソール・ライターは近景、中景、遠景の役割を的確にすることで写真の魅力を引き上げています。

代表的な写真では、近景は画面に緩急をつけるためのボケ要素、中景は視点を誘導するメインの被写体や鮮やかにコントラストを上げる要素、遠景は全体の基礎となるテクスチャ要素として機能していることが多いです。過剰なボケはないのでそれほど大きく明るいレンズを使わなくとも良さそうですが、むしろ取り回しの良さが重要になってきます。

フレーミングとタイミングがこのソール・ライターの写真において重要なキーポイントになってくるわけですが、そこで考えることとしてズームレンズを使うかどうか。普通に考えればズームの汎用性にメリットが多そうです。しかし言うまでもなく「撮れるから撮る」画と、「撮ろうとして撮る」画では大きく異なります。そしてライカM型にはズームはありません。ライカRやライカSLでも良いのですが、まずはM型単焦点で試してみることにします。M型レンズだと以下あたりが良さそうです。

75mmのおすすめレンズ

85mmのおすすめレンズ

Tele Tessar 85mm f4
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135mmのおすすめレンズ

今回は135mmでも銘玉と言われるTele elmar 135mm f4を使い、ソール・ライター気分で1日撮影してみました。結果的に開放f値はf4で十分かなという感じ。

実際に撮ってみたライカの作例と自己添削

実際にライカM10にビゾフレックスEVFをつけて撮影してみました。まぁまぁ上手く撮れたかなというものもあれば、明確に要素が足りないものも多くあります。写真を見ながらひとつひとつ構成を確認していきます。

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左:雰囲気は出てるけど退屈な写真。特に面白みがない結果に。 右:覗き見した感があって、静と動を感じる。構図の分かりやすいインパクトもあって悪くない印象。

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左:人の向きの対比を意識して撮りました。物語を感じさせる構図で良いのでは? 右:バスの開いたドア越しの人物。雰囲気はあります。

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ユニークなファサード越しに。向こうの人のポーズ次第でしょうか。方法論としてはやや使い古された感じも。

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こちらも同じようなフレーミングです。分かりにくいですが黄色の衣服を着てます。黄色が来るまで待ちましたが結果は微妙ですね。

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構造物を介して大胆な構図にしてみました。複雑で面白いもののちょっとうるさい印象もあります。

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左:反射するガラスを見つけたら粘ります笑。もう少し被写体の関係性が見える写真だと○。 右:近景、中景、遠景で魅せる写真。SNSでよく見るタイプです。なんてことはない写真。

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ロゴや看板も部分的に使えばデザイン要素になります。待ってましたが良い感じに人が来ませんでした。

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左:個人的によく撮れた方だと思った写真。バランスは非常に良いかもしれない。 右:こういう分割構図は望遠だとやりやすいですね。

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左:多重露光でもしたような写真。飛び道具的には面白いと思います。 右:画面の大部分をこうやって埋めてしまうのはソール・ライターでも多いですね。あとは何を見せるかでしょうか。これは失敗。

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こういった抽象的な写真もソール・ライターは撮っています。個人的には好きです。

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左:街なかで線を見つけると画面分割に使いたくなります。もう一捻りないとちょっと退屈ですね。 右:映像でモデルが一瞬見せる視線に合わせて撮りました。ビビッドな赤も入ってまぁまぁの出来ではないでしょうか。

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左:赤と黄。構造物で大胆に画面を埋める。悪くないけど何かが足りない。 右:線と文字。座る人と歩く人。平面構成的にはバッチリです。けっこう好きです。

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左:視認性の高いロゴをあえて使って。捻りはないですが現代的なスナップ。 右:影だけが入るように何度もタイミングを見計らいました。惜しむべきは人のバランス。左上の余白が機能してないですね。

撮ってみて分かったのは、単焦点でも十分に撮影できるということ。むしろ単焦点だからこそ視点の距離感が定まり、場所や画角、被写体の選定がしやすかったように思います。

なお、すべての写真は当時のフィルム、コダクロームを再現したLightroomプリセットをあててデジタル現像しています。

方法論の危険性と写真の価値

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ソール・ライターを意識して撮っていると、「もうちょっと人をこっちに…」「こんな風貌の人来ないかな…」と被写体への欲が増えてきます。しかし現実にはそうそう思った人は通りません。

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そこで皆考えるのです。理想の風貌をしたモデルを立たせたらいいんだ、と。そうやって撮られた写真はSNS中心に多く広まりました。少し感傷的な一文を添えれば完成です。こうやって人の手によって場が作られて撮られた写真をコンストラクテッドフォトといいますが、果たしてこれはソール・ライター的写真なのでしょうか?

ソール・ライターは今で言うスナップ写真の達人です。ファッション写真で経歴を積み「見せ方」のプロフェッショナルとして頂点まで上り詰めた人です。そんな人が現実世界の中に偶然性が生み出す奇跡的な美しさを見出したのがあの写真だと思います。

しかし、スナップをコンストラクテッドフォトとして作り込んだ瞬間、本来の偶然性スナップとしての価値はなくなるんですよね。そしてその構図や特徴、手法だけを真似して撮ったとしても、それはInstagramに見られる刹那的に映える写真、つまりかっこいいだけの短期的消費写真となり、いわゆる「良い写真」とはなりません。

そもそもコンストラクテッドフォトを撮るのであれば作為としての構造やコンテキストを求められるわけですが、それもありません。デザイン的な配置が優れる写真は、あくまでデザイン的、つまり商業的な機能を求められる場合は良しとされますが、写真史の中では価値を持ちにくいでしょう。

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写真の面白みは「写されているものが記号的に合わさる不可解な意味性」にあると私は思います。これを意図するかどうかで写真の価値は変わると思うのです。ソール・ライターが当時どこまで考えていたかは不明ですが、現在こういった手法を行う場合はただかっこよさに注視すると危険だということは確実です。

ただし、このソール・ライター的に撮るのは本当に楽しいことも事実です。これまで何とも思わなかった物や構造物がすべて写真を演出する要素に見えてきて、中望遠ひとつ持ち出せば無限にひとりで楽しめます。

写真家として独自の表現を突き詰めるならソール・ライター的に撮ることはもはや意味がないと言えます。しかし、この写真の中に読み取り可能なイデオロギーや風刺、その他何か別の側面を入れることができればまた変わってくるかもしれません。

このように厳密には注意が必要なソール・ライター写真ですが、写真を趣味でやっている方には非常におすすめです。なぜなら被写体や色の選択、画面構成と比率の使い方、個性的なフレーミングなど、写真スキルを上げるための分かりやすい挑戦が揃っているからです。そして何より撮っていて楽しいです!これは本当に大事です。ぜひぜひ万人に試して欲しい撮り方だと思いました。

さいごに

ライカでソール・ライターを意識して写真を撮ると危険な話。

一人の作家が持ち上げられるとその手法に注目が集まりがちですが、本当に重要なのは時代背景や撮影されたものが示す意味の文脈を考えることです。常にここを考える癖をつけると、写真が持つ表層だけをなぞらえて上滑りせずに済みます。

魅力的なソール・ライターの写真から学ぶことはたくさんあります。その中の大きなひとつは「撮る喜び」だと私は感じました。撮るって楽しい、そして工夫をするともっと楽しい。こういった原始的なことをソール・ライターの写真は思い出させてくれました。

そしてこれらの撮影体験は写真を撮る技術として自分の糧になるものです。こういった引き出しはたくさんあればあるほど写真表現が豊かになることは間違いないと思います。

ぜひライカでソール・ライター風に写真を撮ってみましょう。撮って気づいたことがきっとあなたの写真を更に豊かにしてくれると思います。

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