萩庭桂太氏と渡部さとる氏の対談から見るライカ
Youtubeに興味深い動画あったので、それをちょっと掘り下げようと思う。
Youtubeに2B Channelという写真専門チャンネルがある。これは渡部さとるさんが運営されているチャンネルで、私自身2B Channelをよく見ています。思慮深い渡辺さんの言葉や企画から、写真についてあれこれ考えを巡らすのに最適の動画がたくさんあります。
そこに萩庭桂太氏×渡部さとる氏の対談という形でライカに関する動画が投稿されたので、未視聴の方はぜひ見て欲しい。
そしてこの動画についてコメントでは、「神回!」「とても深い内容だった」という感想が多かった。
ん?本当にそうなのだろうか?
私自身ちょっとピンとこない部分がいくつかあって、「理解できる」or「理解できない」ではなく、説明がないところをどう補完して良いのか判断に迷うという感じだった。
動画の内容はライカ、というかレンジファインダーの機構の話から来る撮影体験についての捉え方や撮影方法、またその概念的な話だ。
CONTENTS
萩庭桂太氏の言うピントと撮影行為
まずピントの話。対談では萩庭さんはライカは撮影時にピントを合わせているわけではない。だからピントを合わせるという行為自体がない、ライカでは距離を測っているだけとのこと。
これは単純に光学的な現象をどう言葉に置き換えるか、どの視点で語るかの問題であると思う。一眼であってもレンジファインダーであってもレンズ自体はピントを調整して結像させている。ここに違いはない。
だからこのピントの話は、写真における撮影アクションの「テクニック」ではなく「マインド」の話として捉えるべきなのだろう。
写真は対象との距離をどう認識するか、対象との距離感をどう捉えるかが重要だ、という事実がある。
ライカは距離計を使い、実際に距離を測って写真を結像させているので、「距離感を第一に対象を見つめて、その受け取り方をイメージ化すること」に注力すべきだ。
こういう主張なら私は理解できるし、私もそうだと思う。21mmでも50mmでも、1m先の対象を切り取った写真は見栄えこそ全然違うが、対象との向き合い方という点で本質的には一緒なのだ。
私自身がよくライカのメリットとして上げていることがある。それは、撮影時にすでに完成した画像として認識できる一眼やミラーレスと違い、ライカはその画像としてのイメージの取捨選択ができないという点だ。
言い換えると、画像化される前のイメージ、つまり対象が表す本質をどう捉えるかについて考えを巡らすことができるのがライカだと言っても良いと思う。
この対象の本質を掴もうとする行為は、被写体を自分事として認識できる距離の如何によってその密度が変わってくる。だから距離をどう認識するか、それをリアルに測りながら撮影するライカは特殊、ということなんだろうと私は理解しているが、渡部さんのこの動画を見た方はどんなふうに感じたのだろうか。
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萩庭氏のtakeとshootの概念
写真の言葉の意味と撮影行為
言語というのはその言葉が持つ本来の意味で最適化されるように生み出されている傾向があり、その由来から物事の真髄へ迫ろうとする考えはよくある。
例えばtradition=伝統という言葉がある。伝統というと表面的には変わらないものやこと、もう少し踏み込むと変わり続けることで長らく受け入れられているものという意味になる。traditionの「tra」はtranslateなどのように、移り変わる、変化することを示す言葉で、「di」は決定すること、「tion」は状態を示す言葉で、これらをまとめると、「伝統」とは移り変わりながらそれらを決定している状態。それが本来の意味だと考えることができる。
動画内では萩庭さんいわく、一眼レフやミラーレスは画像としてのイメージをセンサーでトレースしているという意味合いで、「take a picture」、つまり「イメージを受け取る」なのであり、一方ライカはピントがないので現実を狙って取り込むという意味で「photo shooting」だという話がある。
しかし、これ、実は私が長年考えていた捉え方とまったく逆だった。
ライカにおける撮影の解釈
私自身はライカこそが真のtake。つまり一眼やミラーレスのように距離を無視して完成されたイメージを画像としてshootするのではなく、見つめる世界をそのまま受容するように受け取る意味合いがライカには強いと感じていたからだ。
shootはどちらかというと個人的に切り取るのイメージが強い。「ライカで空間を切り取る」という表現をときには使うが、画像編集ソフトの範囲選択のように切り取るのは一眼タイプで、ライカはもっとアバウトに空間の一部(ブライトフレーム内)を平面に転写しているように感じる。
しかしまぁ「take a picture」という言葉が作られたとき、それがどういう意味合いを持って作られたのか、ネイティブではない私にはわかるすべもない。だが、写真という行為が何を意味するのか、言葉から考えるというのは良い機会なので、これは写真をやっている人すべてに考えて欲しい問題だなとも思う。
ちなみにこれらの言語の捉え方については正解はなく、優劣もない。単に写真をどう捉えるか、言葉の意味を自分なりに解釈して自身の写真理念に活かせるかどうかだと思っている。
私は今でもライカで写真を撮るときは、この見ている世界をそのまま受け取って、自分のコンテキストに変換するようなイメージで撮っている。画像が出来上がる前にshootして理想のイメージを狙うという感覚はあまりない。ここは写真を撮るスタンスにもよるのだろうが。
ライカと撮影の経験について
また、ライカを使うと最初はビックリするぐらい下手になる、というのは本当にそうだ。まるで撮影方法が違うのだし、ライカは楽器のようなものなのだ。何度も練習して自分で扱えるようになって初めてちゃんとまともに曲を演奏できるようになる。良い演奏を奏でるためには、そもそも楽器を扱っているという感覚自体がなくならなければいけない。これはカメラも同じ。
カメラでとにかくシャッターを切るというのは、楽器で言えばただ音を出しているだけだ。それは演奏ではないし、よほどのことがなければその単音だけで人の心を動かすことはできない。カメラと被写体、そして自分の意図と意識の関係性を調和させて初めてシャッターを切る。すると写真は意味を持つはずだ。
萩庭桂太氏と渡部さとる氏の対談を見て感じたこと
この動画を見て感じたのは、写真を言語化して「分かった気になること」は怖いなということ。つまりこれを見た人が、「写真って距離なんだな」と思い、何か分かった気になる。
しかし本当に重要なのはその距離の扱い方であり、自分の見せたいイメージとの関係性だ。そこへの踏み込み方なのだ。写真=距離、A=Bと断定することで思考停止してしまうのは怖い。むしろここからが大事なのに。
私自身は「写真家」ではないのでプロとして活躍されている方とライカをどう見るか、感じるか、考えるかはまた違ったところがあるし、もちろんそれが各々別個であって良いと思っている。こういう考え方はもっとたくさん見て聞いてみたいと思ったのと同様、写真を目指される方はこういった自分なりの解釈を持って写真やカメラに接することがこれからも求められると思う。なんせ意味と物語がなければそれはただ現実の焼き直しでしかないのだから。
さいごに。
M型教習所は楽しそう。私も受けてみたいと思いました。
萩庭さんのサイトは下記になります。
https://keitahaginiwa.com/index.html
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